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「日本で無名だから海外は無理」は本当か?タイで100店舗超えのBonchonから考える市場調査

タイの街中でみかける韓国フライドチキン【Bonchon】。タイではNo.1 Korean fried chicken brandのキャッチフレーズで、田舎にもあるぐらいの大人気店です。前に韓国出張に行ったとき、Bonchonの店を探したことがあります。見つかりませんでした。韓国人スタッフに聞いたら「何それ?」と言われました。
なんとBonchonは韓国国内に店舗がないのです。なので韓国人にはほぼ無名です。

Bonchonは韓国・釜山生まれのフライドチキンブランドです。2002年に釜山で1号店を開き、2006年にニューヨークへ進出。以来、海外を中心に広がってきたブランドで、現在も韓国国内には店舗がありません。

一方タイでは、モールに行けば必ず見かけるくらいの存在で、Minor Food公式サイトでは現在122店舗。そして2026年8月、タイのMinor Foodがこのブランドの米州を除く世界における所有権を取得することが発表されました。タイでBonchonを運営する側だった企業が、今度は米州を除く世界市場でブランドを所有する側に回ったということです。

「本国で有名じゃないと海外では通用しない」の逆をいく話です。じゃあ、何が売れる条件だったのか。
タイ企業が3段階で関係を深めていった道のり

この買収、一夜にして決まったわけではありません。3段階を踏んでいます。

2019年:まず現地の運営会社を買う

Bonchonのタイ1号店は2011年。Minorが参入する2019年までに、すでに40店舗を超えるまで成長していました。つまりMinorがブランドをタイに持ち込んだのではなく、すでに現地で育っていたブランドに、Minorが後から入ってきたということです。

2019年11月、Minorはこの現地運営会社Chicken Timeを20億バーツで買収。ただしこの時点では、新規出店のためのフランチャイズ権は含まれていませんでした。あくまで「既存店の運営を引き継いだ」段階です。

2020年:拡大する権利を取りにいく

その後、Minorはマスターフランチャイズ権を持つSpoonful社の株式を取得し、タイ国内でBonchonを自由に拡大できる立場になりました。既存店を運営するだけでなく、タイ国内でブランドを拡大していく立場になったということです。

2026年:ブランドそのものを取得する

そして今回、Minor Foodは戦略パートナーのSerruya Private Equity(SPE)と共同で、Bonchon International本体を既存株主のVIG Partnersと創業家から取得する契約を締結。Minor Foodの純投資額は5,000万ドルです。取得後は、米州をSPEが、それ以外の全世界をMinor Foodが持つ形になります。タイでの運営実績を積み上げた末に、世界のオーナー側に回ったという流れです。

タイでブランドを運営していた企業が、最終的にはブランドそのものを所有する側に回ったという、非常に興味深い展開です。

Minor Foodは今回の買収発表の中で、自社がBonchonのタイにおけるマスターフランチャイジーであり、システム売上ベースではBonchon最大のマスターフランチャイジーだと説明しています。つまり今回の買収は、知らない海外ブランドにいきなり大金を投じた話ではありません。自らタイ市場で運営し、店舗を増やし、消費者の反応と収益性を確認したうえで、最終的にブランドそのものを取得した。規模は違っても、「まず市場を見てから投資する」という順番は、中小企業の海外進出にも共通する考え方だと思います。

ブランド以外の「タイで売れた理由」

Bonchonのタイでの強さは、ブランドの魅力だけでは説明がつきません。

モールが飲食の主戦場だという理解

Bonchonのタイ店舗は、エムクオーティエ、サイアムセンター、セントラルワールドといった主要モールに集中しています。タイでは飲食店の売上がモールの人の流れに直結します。「どこに出すか」を外したブランドは、いくら味が良くても埋もれます。

タイ人の食べ方に合わせたサイドメニュー

Bonchonのタイ店舗には、カオニャオ(もち米)がサイドメニューとして普通にあります。チキン単品で完結させず、ご飯もの・サイドを揃えて「一食」として成立させているのは、フライドチキンを単品で食べる文化圏とは違う組み立て方です。韓国の看板メニューを持ち込みながら、食べ方はタイの外食スタイルに合わせている。

デリバリーとアプリへの投資

Bonchon Thailandは専用アプリを持ち、リアルタイム配達追跡やポイント制度まで整備しています。フライドチキンはもともとデリバリーと相性が良い商品ですが、それをアプリ・ポイント経済圏まで作り込んだのは、ブランド本体ではなく現地運営側の投資です。

実は「運営力」が主役だった

Minorは40年以上タイで外食チェーンを運営してきた会社です。The Pizza Company、Sizzler、Dairy Queen……。すでに40店舗超まで育っていたBonchonに、自社の外食運営ノウハウを重ね、現在の100店舗超まで拡大したのがMinorです。良いブランドを「見つける」ことと、それを「育てる」ことは別の能力だとわかります。

「日本で無名」は、タイで通用しない理由にならない

Bonchonは現在、韓国国内に店舗を持っていません。韓国国内の店舗網や圧倒的な本国知名度を土台にしてタイへ進出したブランドではないということです。それでもタイで100店舗を超えました。

日本企業と話していると、「うちはニッチな商品だから」「国内でそこまで有名じゃないから」という理由でタイ進出を最初から選択肢に入れない方が多くいます。でもBonchonの例が示すのは、本国での知名度は海外で売れるための必要条件ではないということです。

だからといって、「日本で無名でもタイへ持っていけば売れる」という話でもありません。Bonchonが示しているのは、日本での知名度だけを理由に海外市場の可能性を判断すること自体が間違っている、ということです。

日本で有名でもタイでは売れない商品があります。反対に、日本ではニッチでも、タイの消費者、価格帯、販路、競合環境とうまく噛み合えば市場が見つかる商品もあります。それを進出前に確認するのが、市場調査です。

「うちは日本でもそれほど有名ではないから、海外なんてまだ早い」。中小企業の方から、私はこういう話を聞くことがあります。でも、海外市場を見るときに調べるべきなのは、日本での知名度ではありません。タイに同じ商品はあるのか。誰が買っているのか。いくらなら売れるのか。どの販路なら届くのか。競合はいくらで、誰が販売しているのか。まずそこを調べてから、「行く」「行かない」を決めればいいのです。

「日本では無名だから」と海外市場を諦める前に、自社商品がタイで誰に、いくらで、どの販路なら売れる可能性があるのかを調べてみませんか。WITHTHAIでは、競合・価格・ターゲット・販路まで含めたタイ市場調査を行っています。


出典:
Minor Food「MINT acquires Bonchon Chicken Restaurants in Thailand」(2019年11月18日)
Minor Food「Bonchon」公式ブランドページ
Minor International「MINT Obtains Master Franchise Rights to Expand Bonchon Chicken in Thailand」(2020年3月5日)
Minor International「MINOR FOOD and Serruya Private Equity to Acquire Bonchon International」(2026年8月11日)

長谷川舞美|タイ貿易×海外販路×インバウンド戦略支援

タイ在住18年・大手総合商社出身。中小企業のタイ進出と訪日インバウンド支援を行うマーケター。

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