タイではスタバが人気で、私が普段利用する店舗もかなり混んでいます。
前回の記事でも触れましたが、「Buy 1 Get 1」の日になると、行列で買うのを諦めるレベルの混雑になることもあります。それ以外の日でも基本的にどの時間帯もそこそこ人が入っている印象です。しかも、日本と比べても体感的には高い。それでもこれだけ人が入るなら、さぞ儲かっているんだろうな、と個人的に気になって、タイ運営会社Coffee Concepts Retail Co., Ltd.の決算書を取り寄せてみました。
私はタイ企業の市場調査や競合調査をするとき、可能な限り登記情報と決算書まで確認するようにしています。タイでは、登記されている企業について決算情報を取得できるからです。今回は前回の記事で取り上げたスターバックスを、実際にその方法で調べてみた形です。
結論から言うと、数字だけを見ると「絶好調」に見えるのに、複数年並べたり貸借対照表まで見ると、印象がかなり変わる。そんな内容でした。
売上は堅調、でも成長率は明確に鈍化している
まず売上高の推移です。
- 2021年:61.3億バーツ
- 2022年:83.8億バーツ(前年比+36.6%)
- 2023年:98.4億バーツ(同+17.5%)
- 2024年:104.9億バーツ(同+6.6%)
- 2025年:108.4億バーツ(同+3.3%)
コロナ明けの反動増だった2022年の+36.6%から、年々成長率が下がり続けて、2025年はついに+3.3%まで落ちています。以前の記事で触れた「年間30店舗ペースの慎重な出店」「経済の不確実性を受けて投資姿勢は慎重に」という公式コメントとも重なる動きで、コロナ後の反動増が一巡し、売上成長はより落ち着いたフェーズに移っているように見えます。
粗利率は43.7%。でも、そこから先で削られる
ここが個人的に一番意外だった部分です。2025年12月期の数字を並べるとこうなります。
- 売上高:108.4億バーツ(100%)
- 売上原価:61.1億バーツ(56.3%)
- 売上総利益:47.3億バーツ(43.7%)
- 販管費:34.4億バーツ(31.8%)
- 営業利益:12.9億バーツ(11.9%)
- 純利益:10.4億バーツ(9.6%)
粗利率は43.7%。これ自体は決して低くありません。ただ、そこから最終的に純利益として残るのは9.6%です。売価と原価だけを見て「かなり儲かる商売」と判断するのと、会社全体の損益を最後まで見るのとでは、印象がかなり変わります。
では、粗利43.7%から何が削られているのか。決算書では販管費が売上の31.8%を占めています。店舗を運営する以上、賃料、人件費、販売促進費などさまざまなコストが発生しますが、今回確認した決算書の表示科目だけでは、その内訳までは判断できません。
つまり、粗利43.7%という数字だけを見る場合と、最終的に純利益9.6%まで見る場合とでは、収益構造の印象が大きく変わります。
2025年、決算書に異変が起きていた
ここまでは「まあそういうものか」で済む話です。ただ、2025年12月期の貸借対照表を見て、目を引いた数字がありました。
- 株主資本:13.8億バーツ→8.7億バーツ(前年比−37.1%)
- 利益剰余金:8.7億バーツ→3.6億バーツ(同−58.7%)
- 現金及び預金:19.4億バーツ→9.2億バーツ(同−52.7%)
- 短期借入金:0バーツ→4.5億バーツ(過去5年で初めて発生)
純利益は10.4億バーツ出ているのに、株主資本は逆に4割近く減っている。おかしいと思って利益剰余金の動きを追ってみると、大きな手がかりがありました。
期首の利益剰余金8.7億バーツに、2025年の純利益10.4億バーツを足すと19.1億バーツになるはずです。でも期末の実際の利益剰余金は3.6億バーツしかありません。差額を計算すると、およそ15.5億バーツ。資本金は5年間ずっと5.05億バーツで変わっていないので、減資による株主資本の減少ではなさそうです。つまり利益剰余金の動きだけを見ると、約15.5億バーツ規模の利益処分、またはその他の減少要因があった計算になります。
配当として株主側へ還元された可能性も考えられますが、正直、今回取得した決算書だけではその全額が配当だったとは断定できません。同じ年度に現金がおよそ半分まで減り、これまで計上されていなかった短期借入金4.5億バーツが発生している点も気になります。ただ、この3つ(利益剰余金の減少・現金の減少・短期借入金の発生)を直接の因果関係で結ぶには、追加の資料が必要です。決算書だけで言えるのは、「2025年に、これまでとは違う規模の資金の動きがあった」という事実までです。
登記情報も確認すると、Coffee Concepts Retailの直接の株主はCoffee Concepts (Thailand) Co., Ltd.で、さらにその上にはタイ側51%・シンガポール側49%の株主構成があります。Starbucks Corporationが直接の株主になっている構造ではありません。今回の資金の動きが、この株主構成のどこに向かったものなのかまでは、決算書だけでは分かりません。
日系企業にとっての示唆
この決算書から読み取れることは、単なる「スタバ豆知識」では終わりません。
私が今回一番伝えたいのは、「有名企業でも、売上だけ見ていては分からない」ということです。
108億バーツを売り上げ、10億バーツを超える利益を出している。ここだけを見れば、間違いなく絶好調です。でも複数年の数字を並べると成長率の鈍化がはっきり見えるし、貸借対照表まで見ると、2025年には現金・株主資本・借入金にこれまでとは違う動きが出ています。会社案内や担当者の説明だけでは、ここまでは見えません。
タイでの進出や取引を検討する際、相手企業の話す「成長中です」「好調です」を鵜呑みにせず、可能な範囲で決算の中身まで確認する。それだけで、見えるリスクの解像度は大きく変わります。特に代理店候補や現地パートナーについては、「紹介された会社だから」「有名企業だから」というだけで判断せず、契約前に確認しておいた方がいい情報があります。
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