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スタバはタイ進出28年目で初めて「タイティー」を出した。御社はなぜ1年目から現地化を急ぐのか?

先日、タイのSNSで「スターバックスがついにタイティーメニューを出した」という投稿が話題になっているのを見かけました。

2026年7月、タイのスターバックスは事業戦略発表とあわせて、ドリアンとタイティーを主役にした季節限定メニューを発表しました。7月21日から販売が始まったの一つが「Iced Shaken Thai Milk Tea with Egg Custard Pudding」、いわゆるタイティーに卵カスタードプディングをのせたドリンクです。合成着色料を使わず、タイ人が慣れ親しんだ濃いめの味に仕上げたと説明されています。

ここで驚いたのが、スターバックスがタイに進出したのは1998年。今年で28年目です。28年間コーヒーとフラペチーノで勝負してきたスタバが、ここに来てようやく「タイティー」という名前のドリンクメニューを出した。国民的な飲み物であるにもかかわらず、です。

タイティー味のスイーツ自体、今回の発表では「タイティーエクレア」も同時に店頭に並んでいます。つまりスタバは、タイティーの風味を借りたスイーツと、タイティーそのものを名乗るドリンクを、今回まとめて投入してきたということです。

なぜ「今」なのか

タイのメディアMarketThinkの解説記事では、これまで出さなかった理由について、スタバの品質基準に合う茶葉の調達に時間がかかったから、という見方が示されています。ただしこれはメディア側の解説であって、スターバックス本人が「28年間ずっと開発を続けていた」と明言しているわけではありません。単に商品としての優先順位が低かった、ブランド戦略上コーヒー専業を貫いていた、という可能性も十分あります。

それでも一つ言えるのは、進出から28年、タイで高い知名度とブランド力を持つ世界的なコーヒーチェーンが、タイ人にとっての「正解の味」が明確にある国民的飲料に、少なくともこれまで安易に手を出してこなかったという事実です。実際、タイの街中にはタイティーを出すカフェや屋台がいくらでもあります。老舗のチャトラムーをはじめ、ここ数年は個人経営のタイティー専門店が続々オープンしていて、正直かなりのレッドオーシャンです。中途半端な再現度で出せば、タイ人の舌にはすぐ見抜かれる領域です。

「待った」だけではない、今出す理由

ただ、今回の動きを「慎重に検証を重ねた末の美談」として片づけるのは、ちょっと甘いと思っています。タイのマーケティング専門メディアBrand Buffetの分析記事を読むと、もう一段リアルな事情が見えてきます。スタバは「高すぎる」という消費者イメージを崩すため、95バーツの新メニュー(Es Yen、Shaken Choc)を投入するなど、価格帯そのものを見直す動きに出ています。”高級カフェ”から”毎日飲めるカフェ”へとイメージを転換させようとしている、という指摘です。地場チェーンや独立系カフェとの競争が激しくなる中、購買力が落ちている消費者層をどう取り込むかが、タイ市場全体の課題になっています。

この「高い」というイメージ、私自身も現地でよく実感します。タイのスタバは以前、月に1回だけ「1 Buy Get 1」のプロモーションをやっていた時期があって、その日だけは毎回とんでもない行列ができていました。普段はその値段を出し渋る人が、半額になった瞬間にどっと押し寄せる。これはタイの消費者にとってスタバが「特別な日のご褒美」的な位置づけで、日常的に気軽に飲むものではなかったことの表れだと思います。

タイティー自体は95バーツの新メニューほど安いわけではなく、単体で「手頃な価格戦略」の主役というわけではなさそうです。ただ、低価格メニューの投入と、タイ人の生活に根付いた「タイティー」の投入が同じタイミングで来ているのは偶然ではないはずです。味・価格・来店頻度をまとめて見直す、大きな戦略の中の一手として今回のタイティーがあると見る方が実態に近いと思います。

日系企業がやりがちな、真逆のパターン

私がタイでの市場調査のご相談を受けていると、進出したばかりの日系企業から驚くほど頻繁に聞かれる言葉があります。

「タイ人向けに、現地の味にアレンジした商品を出したい」

相談のタイミングを聞くと、進出してまだ1年に満たない、ということも珍しくありません。市場調査もそこそこに、なんとなく「タイ人はこういう味が好きらしい」という情報だけを頼りに、現地化商品の企画が動き出してしまっている。

気持ちはよく分かります。せっかくタイに進出したのだから、早く現地に馴染む商品を出したい。本社からも「現地ならではの商品開発」を求められる。焦る理由はいくらでもあります。

もちろん、スターバックスが本当に28年間ずっとタイティーを研究し続けていたとは限りません。発売しなかった理由には、ブランド戦略や市場環境、他の商品の優先順位もあったはずです。ただ少なくとも、進出直後から安易に「タイらしい商品」を前面に出したわけではなく、まずコーヒーブランドとしての立ち位置を固めた上で、現地商品や価格帯を少しずつ広げてきたのは確かです。

進出したばかりの中小企業が、限られた予算と情報の中で「現地化商品」を1年目から急ごうとする。これは、大きなブランドでさえ、市場での立ち位置や顧客との関係を築いた上で進めている現地化を、十分な検証もないまま初年度で形にしようとしているのと同じです。

現地のニーズを見誤って失敗するのは、味付けの話だけではありません。
タイではゴキブリシートが売れない理由でも書いていますが、現地の生活習慣や文化を無視した展開は、商品カテゴリーを問わず同じ落とし穴にはまります。

「現地化」と「現地の風味を借りる」は違う

私自身、貿易実務や市場調査の現場で、日系企業が現地向けにアレンジした商品を投入して、思ったように売れなかった相談を何度も受けてきました。理由を掘っていくと、たいてい共通しているのは同じことです。「現地の人がどう感じるか」を、現地の人に確かめる前に商品化まで進んでしまっている。

タイティーエクレアのように、風味を借りるだけの商品なら、多少ズレていても「まあこういう味もあるか」で済みます。でも「タイティーそのもの」を名乗って出す以上、タイ人にとっての正解の味からズレていれば、それはもう別物として扱われます。

私が市場調査のご相談を受けるとき、「タイ人に試食してもらいました、好評でした」という説明だけでは判断しません。確認するのは、たとえばこういうことです。

  • 試食してもらったのは誰か。年齢や所得層は、想定している顧客層と一致しているか
  • 価格を見せた上で、それでも買いたいと言われたか
  • 競合商品と並べて比較した上での評価か

ここまで確認して、初めて意味のあるデータになります。知人のタイ人に「おいしい」と言われたことと、実際の市場で継続的に売れることは、まったく別の話だからです。

御社が今考えている「タイ人向けの現地化商品」は、味・価格・競合・販路まで、ここまでの検証を済ませていますか。

もし御社の中で今まさに「タイ人向けの新商品」「現地化メニュー・ラインナップ」の企画が動いているなら、それを投入する前に一度、私に見せてください。日本側の会議で決まった企画案が、実際にタイの店頭や消費者の感覚に照らしてどうなのか。現地に18年いる人間の目で、率直にお伝えします。

すでに投入してしまって「思ったより反応が悪い」と感じている場合も同じです。何がズレていたのかを一緒に洗い出すところから始められます。

WITHTHAIでは、タイ人消費者へのヒアリング、競合商品の価格・販路調査、試作品への評価収集など、商品を投入する前の検証を支援しています。「タイ向けに味を変えた方がいいと言われたが、本当に必要なのか」「誰に、いくらで売るべきか判断できない」という段階でもご相談いただけます。

タイ市場調査のご相談は、WITHTHAIのお問い合わせフォームから直接私宛てに届きます。今の企画書や商品サンプルがあれば、それを見せていただく形で構いません。


参考記事:
・MarketThink「Starbucks อยู่ในไทยมาแล้ว 28 ปี วันนี้เปิดตัวเมนู “ชาไทย” เป็นครั้งแรก」
https://www.marketthink.co/76409
・Brand Buffet「สตาร์บัคส์ สู้ศึกกาแฟไทย 6.5 หมื่นล้าน ชูกลยุทธ์ “เมนูราคาเข้าถึงง่าย”」
https://www.brandbuffet.in.th/2026/07/starbucks-strategy-for-the-thai-market/
・Marketeer Online「Non-Coffee กระแสแรงไม่ไหว เข้า ‘สตาร์บัคส์’ สั่งชาไทย – ทุเรียนปั่นได้แล้ว」
https://marketeeronline.co/archives/477220
・MarketingOops「คาเฟ่เต็มเมือง! ‘Starbucks’ สร้างโอกาสการเติบโตอย่างไร ?」
https://www.marketingoops.com/news/biz-news/starbucks-thailand-growth-strategy-600-store-2030/
・SD Thailand「เปิด 4 กลยุทธ์ ‘สตาร์บัคส์ ประเทศไทย’ กับเส้นทาง 28 ปี」
https://www.sdthailand.com/2026/07/starbucks-thailand-sustainable-growth-2026/
・The Thai Press「”สตาร์บัคส์ ประเทศไทย” เปิดตัวเมนูซิกเนเจอร์ใหม่ ชูเสน่ห์วัตถุดิบไทย ‘ทุเรียน-ชาไทย’」
https://www.thethaipress.com/2026/167127
・Starbucks Thailand公式「Starbucks in Thailand」
https://www.starbucks.co.th/about-us/starbucks-in-thailand/
・Bangkok Post「Starbucks Thailand looks beyond coffee for growth」
https://www.bangkokpost.com/business/general/3286999/starbucks-thailand-looks-beyond-coffee-for-growth

長谷川舞美|タイ貿易×海外販路×インバウンド戦略支援

タイ在住18年・大手総合商社出身。中小企業のタイ進出と訪日インバウンド支援を行うマーケター。

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