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タイ進出を検討しているなら、現地企業の「今」を先に知ってほしい──TFPマイナスが示す、パートナー選びの落とし穴

タイ進出を検討している日本企業が最初にやることは、たいてい市場規模の調査や競合リサーチです。「タイは人口7,000万人、中間層が育っている、チャイナプラスワンの受け皿として注目されている」──どのレポートを読んでも同じようなことが書いてあります。

でも、現地に18年いる私がずっと気になっているのは別のことです。

「あなたが進出先で組む相手(タイ企業)の今の状態を、ちゃんと把握していますか?」

市場の成長性より先に知っておくべきことが、実はあります。

タイ経済の現実と課題|SME325万社と政府が危機感を強める背景

タイ企業の99.5%を占めるSMEとは

タイのビジネス構造を一言で表すなら、「中小企業の国」です。

タイ中小企業振興オフィス(สสว.=OSMEP)の最新データによると、タイには2024年時点で約325万社(3,255,957社)のSMEが存在し、これは全企業の99.5%に相当します。販売代理店も、製造委託先も、輸入代理店も、物流パートナーも、そのほとんどがこのSME層から出てきます。日本企業がタイで「最初に話を聞く相手」は、ほぼ間違いなくここに属しています。

SMEは雇用の約69%(約1,340万人)を支えるタイ経済の屋台骨でもあり、2025年1〜9月のSME GDPは4.8兆バーツ、国全体のGDPの34.8%を占めるまでに至っています。

つまり、タイに進出するということは、この325万社のSME層と何らかの形で向き合うということです。

タイ製造業・企業の生産性低下を示す「TFPマイナス0.27」の正体

ここに、見落とされがちな数字があります。

OSMEPが発表した2024年のデータで、タイSMEのTFP(全要素生産性)がマイナス0.27を記録しました。

TFPとは、資本(設備・工場)と労働(人手)という2つの投入要素では説明できない「効率性の伸び」を示す指標です。TFPがマイナスということは、以前と同じかそれ以上の資本と人手をかけているのに、産出量は減っているという状態を意味します。

タイ中小企業振興オフィス(สสว.)の分析によると、現地のローカル企業が苦しんでいる背景には以下の3つがあります。

  • 1. 人件費・最低賃金の上昇: コストが増加しているが、製品価格に転嫁できない
  • 2. 中国企業との競争激化: EVや家具、日用品市場への安価な中国製品の流入
  • 3. デジタル化・DX投資の遅れ: 現場が属人化しており、業務効率が上がらない

平たく言えば:「一生懸命やっているのに、利益が出にくくなっている」

原因はOSMEPも指摘しています。経済の停滞による受注減少、テクノロジー投資のための資金調達困難、そしてデジタル化・効率化の遅れ。これらが複合的に重なって、タイSMEの生産性は構造的に低下しています。

「勤勉さ」で解決できる問題ではなく、ビジネスモデルそのものの限界が出てきているのです。

なぜ今、SME Business Connect 2026が開催されるのか

こうした状況を受け、タイ政府は動いています。

タイ中小企業振興オフィス(สสว.)と商業省ビジネス開発局(DBD)が共同主催する大規模イベント「SME Business Connect 2026:Define Your Next Move」が、2026年6月19日〜21日、バンコク・サイアムパラゴンNEX Hall(5階)で開催されます(入場無料)。

テーマは「次の一手を決めろ」。ソリューション展示・専門家への個別相談・ビジネスマッチングの3ゾーンで構成され、タイ政府として「SMEはもう一人でやっていけない、外部との連携が必要だ」というメッセージを明確に打ち出しています。

このイベント自体が、タイ政府がSMEの現状に強い危機感を持っている証拠です。

TFPマイナスは、日本企業のパートナー探しに直撃する

タイ進出で最初に接触するのはSME層

日本企業がタイ進出の初期段階で接触する企業は、展示会・商談会・現地の紹介ルートを問わず、ほぼSME層です。

販売代理店を探す、製造委託先を探す、輸入手続きを任せる代理店を探す──どのケースも、相手方の大半はこの「TFPマイナス0.27の世界」に生きている企業です。

好業績の大手タイ企業と組めるケースは稀で、そのような企業には日本企業側が「選ばれる」必要があります。現実的な話をすると、最初のパートナー候補として浮上してくる企業の多くは、構造的な生産性低下の中で経営しているSMEです。

「規模が小さいから」では済まない、構造的な実務リスク

「SMEだから多少は仕方ない」と思っていると、思わぬ落とし穴があります。

TFPマイナスが示すのは、単なる「小さな会社の非効率さ」ではありません。技術投資ができない、人材が属人化している、文書化・品質管理の体制がない──こうした構造的な問題が、実際のビジネスの現場でどう出てくるか。次のセクションで話します。

展示会で乗り気だった企業が、証明書を求めたら消えた

商談直後は非常に前向きだった

これは私が現地で実際に経験したことです。

展示会で名刺交換したタイ企業の担当者が、商談中は非常に積極的でした。「ぜひ一緒にやりましょう」「こちらの製品は必ず売れます」──よくあるパターンです。タイ人のビジネス上の笑顔と前向きな言葉は本物です。その場では心から乗り気なのかもしれない。

でも次のステップで、何かが変わります。

「やる気」と「実務対応力」は別物

「では取引を進めるにあたって、御社の証明書をいただけますか」と伝えた途端、連絡が途絶えました。

何度か連絡しても、返信はまばらになり、やがて消えていきました。

これは相手が嘘をついていたわけではありません。「やる気」と「実務対応力」は、まったく別の話です。証明書一枚を出すにも、社内に書類管理の体制がない、誰に頼めばいいかわからない、そもそも取得したことがない──そういう企業が珍しくないのが現実です。

TFPマイナスで示される「効率化・文書化への投資不足」は、こういう形で日本企業との取引現場に現れます。

これはその企業だけの話ではない

展示会やマッチングイベントは、参加企業の「やる気」は担保しても、「実務対応力」は担保しません。タイ政府主催のSME Business ConnectもAustChamのSME Dayも、来場者が優良パートナー候補かどうかは別問題です。

会場で名刺を交換した数十社の中から、実際に書類対応・契約対応・品質管理まで動ける企業を選び出す作業は、現地の実務経験なしには相当に時間がかかります。

現地18年で見てきた「良いパートナー」の見分け方

最初の小さな依頼への反応で全部わかる

いいパートナーかどうかは、大きな商談よりも「最初の小さな依頼」への対応で見えます。

サンプルを送ってほしい、会社概要を共有してほしい、担当者の連絡先を教えてほしい──こうした小さなリクエストへの反応速度と精度が、その企業の実務体質をそのまま反映しています。

「後で送ります」が2週間経っても来ない企業と、翌日にきちんと揃えて送ってくる企業では、本格的な取引が始まってからの信頼性がまったく違います。

書類・証明書への対応が企業体質を映す

会社登記証明、製品の成分表、品質証明、輸出実績の証明──こうした書類をスムーズに出せる企業は、過去に海外取引の経験があるか、少なくとも書類管理の体制がある企業です。「ちょっと待ってください、確認します」で数週間沈黙する企業は、本格的な取引が始まってからも同じパターンを繰り返します。

私がパートナー候補を評価するとき、もう一つ必ず確認するのが決算書です。「やる気」も「担当者の印象」も、財務の実態の前では意味を持ちません。売上の推移、負債の状況、キャッシュフローの健全性──これを見れば、その企業が「成長しているのか」「実は資金繰りに詰まっているのか」がある程度わかります。タイのDBD(商業省ビジネス開発局)には企業の財務情報が登録されており、現地では確認する手段があります。

書類対応力と財務状況、この2つが揃って初めて「信頼できるパートナー候補」と言えます。どちらか一方だけでは不十分です。

自力でパートナーを探すと、どこで詰まるか

展示会・商談会だけでは見えない部分

展示会やビジネスマッチングで出会える企業は、「外に出てくる意欲がある企業」です。これ自体は悪いことではありません。ただ、意欲と実務対応力は別物、という話はすでにしました。

もう一つ見えないのが、「財務の健全性」と「オーナーへの依存度」です。タイSMEの多くはオーナー経営で、意思決定がすべてオーナー一人に集中しています。オーナーが乗り気なら話は進む、でもオーナーが忙しくなった途端に止まる──これはよくあります。展示会のブースで笑顔で対応している人がオーナーとは限りません。

調査・絞り込み・交渉、どこに落とし穴があるか

自力でパートナー候補を10社リストアップして、書類確認、サンプル確認、契約条件の交渉まで進めようとすると、タイ語でのやりとり、現地法規の確認、DBDの企業データベースでの登記・財務確認、現地訪問による実態確認──これらをすべてこなす必要があります。

日本から、もしくはタイに来たばかりの担当者が、この全プロセスを精度高くこなすのは正直かなり難しい。途中で「この会社でいいか」という妥協が生まれやすく、その妥協が後から大きなコストになるケースを私は何度も見てきました。

タイ進出の最初の一手、一緒に設計しませんか

WITHTHAIができること

WITHTHAIは、タイ現地に法人を持ち、18年の在住経験と大手商社タイ支店での実務経験をベースに、日本企業のタイ進出を支援しています。

  • タイ市場調査・競合分析(現地一次情報ベース)
  • 現地パートナー候補の調査・実態確認(DBD登記・財務情報の確認を含む)
  • バイヤー開拓・商談アレンジ・同行支援
  • 輸出入・貿易実務サポート

「展示会で名刺は集まったが、その後どう動けばいいかわからない」「パートナー候補が本当に信頼できる企業かどうか確認したい」──そういう段階からのご相談をお受けしています。

まずは現状をお聞かせください

タイ進出を検討しているが何から始めればいいかわからない、という方も歓迎です。進出の目的と現在地を整理するところから一緒に考えます。

長谷川舞美|タイ貿易×海外販路×インバウンド戦略支援

タイ在住18年・大手総合商社出身。中小企業のタイ進出と訪日インバウンド支援を行うマーケター。

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