「タイって日本食人気ですよね。うちの商品も売れそうですよね?」
タイへの食品輸出を検討している方から、こういう話をよく聞きます。半分は正しくて、半分は危険な思い込みです。
需要はある。でも現場では、売れているのに儲からない、動いているのに前に進まない、という状況が普通に起きています。その理由はシンプルで組む相手を間違えているからです。
今回は、あるデータを入口にしながら、タイの食品ビジネスの現場で何が起きているかを話します。
2025年、タイのサーモン消費量が日本を超えた(衝撃のデータ)
2026年4月、こんなデータが発表されました。
ノルウェー水産物審議会(NSC)の発表によると、2025年にノルウェーからタイへのサーモン輸出量が、日本への輸出量を超えたというのです。
数字を見ると規模がわかります。2025年にタイが輸入したノルウェー産サーモン・フィヨルドトラウトは約3万6,000トン。アジア全体で中国に次ぐ2位です。この5年間で需要は約140%増。NSCがもともと「2030年までに2万5,000トン」という目標を立てていたのに、2025年の時点ですでに2万7,500トンを突破し、計画を見直さなければならない状況になっています。
刺身の本場である日本を輸入量で上回るほどタイ人がサーモンを食べている。この数字を見て「チャンスじゃないか」と思った方、その直感は間違っていません。問題は、そのあとにどう動くかです。
タイ人はなぜ、経済が厳しくてもプレミアム食材を買い続けるのか
タイの経済状況は、ここ数年あまり良くありません。中間層の可処分所得は伸び悩み、家計への圧迫は続いています。それなのに、ノルウェーからの水産物はすべてプレミアムグレードで、しかも輸入量は増え続けています。
これは矛盾しているように見えますが、タイ市場の本質を表しています。
タイ人の消費行動は「節約するところは徹底的に節約して、食と健康には使う」という二極化が起きています。特に都市部の中間層から上の層では健康志向は本物で景気に左右されにくい。NSCがタイ市場を「安定している」と表現するのはそういう意味です。
そしてもうひとつ。タイで流通する生鮮サーモンの98%がノルウェー産というデータがあります。長年にわたるマーケティング投資によって「ノルウェー産=信頼できる高品質」というブランドがタイ全土に定着しています。バイヤーも消費者も、もうそこを疑わない。
「プレミアムで健康に良い食品」というポジションは、タイ市場でしっかり機能します。日本の高級食材も、同じ土俵で戦える余地はある。でも問題は、誰と組んでどう動くか、です。
「需要はある」のに、なぜ日本の食材は現地で売れないのか?
現地視察が「タイ市場の需要調査」になっていない罠
タイに食材を売ろうとする日本企業が最初にやることは、たいてい似ています。現地視察に行って、スーパーや飲食店を何軒か回って「日本食が人気だ」「これは売れそうだ」という感触を持ち帰ってくる。
でもその視察で見えていることと実際にビジネスとして動かすために必要なことは、まったく別の話です。スーパーの棚を見ても、そこに商品を入れるための流通ルートは見えません。どの卸が動いていて、どのバイヤーが決裁権を持っていて、どんな条件で取引が成立しているか。そういう情報は、現場を歩いても拾えません。
視察をしっかりやった気になって帰国する。でも実際には何もわかっていない。ここから動き始めると、あとで壁にぶつかります。
飲食店を回ってもスケールせず、大手チェーンでは価格を叩かれる
次によくやるのが、バンコクの日本食レストランを一軒一軒回るアプローチです。日本食レストランはバンコクだけでも相当な数があって、日本食人気も本物なので一見正攻法に見えます。
でも個人経営のレストランが1ヶ月に仕入れる高級食材の量は、事業として成立するスケールになりません。50軒回っても、物量が積み上がらない。
かといって大手フードチェーンや商業施設のフードコートに入ろうとすれば、既存の仕入れ先がすでに固まっています。新規で入るには価格交渉から始まることになる。プレミアム品として売りたいのに、大量仕入れの条件で値引きを迫られて、気づけばブランド価値ごと削られています。
どちらのルートも、入口としては間違いではありません。でも最初からそこに全力を注いでも、ビジネスとして成立するところまで持っていくのは難しい。
【実話】ある和牛業者から相談を受けた「タイ食品ビジネスの失敗」
市場調査が「ただの観光」で終わっていた
少し前に、こんな問い合わせがありました。
「タイに和牛を輸出したいんですが、全然売れなくて困っています。タイ在住の日本人コーディネーターに頼んで、ホテルに少し入れてもらっているんですが、儲からないんです。」
詳しく話を聞いてみると、状況がだいたい見えてきました。
市場調査として現地のローカルスーパーをいくつか回ったそうです。でもそれは競合調査でも需要調査でもなく、正直なところ観光に近い内容でした。どのバイヤーが動いているか、どのルートで流通しているか、どんな価格帯で取引されているか。そういった情報はひとつも取れていない。「タイでも売れそうだ」という感触だけを持ち帰ってきた状態で動き始めてしまっていました。
日本人コーディネーターが何をしているかわからない、泥沼の構造
さらに問題だったのが、仲介に入っているタイ在住の日本人コーディネーターの存在です。その方が具体的に何をしているのか、業者さん自身もよくわかっていない。ただ、ホテルへの繋ぎを持っているから切れない。でも売値はずっと安いまま。利益が出ない構造が固定されてしまっていました。
中間で抜かれているのだと思います。でもその方を外すとホテルへのルートも消える。どうにもできない、という状態です。
これは特別なケースではありません。タイで「入れているのに儲かっていない」日本の食材ビジネスの、かなり典型的な構造です。
販路開拓で「タイ在住の日本人コーディネーターと組む」のが一番危ない理由
「タイ在住歴」と「現地の食品流通を知っている」はまったく別物
タイへの食品輸出を考えたとき、多くの企業がまず「タイに住んでいる日本人に頼もう」という選択をします。言葉の問題もある、現地の感覚もわかっていそう、という理由からです。
でもこれが、一番危ない選択になることがあります。
タイに住んでいることと、タイの食品流通の中に入れていることは、まったく別の話です。バンコクには様々な事情でタイに移り住んだ日本人がいます。その中で現地のバイヤーと対等に交渉できて、どの卸が信頼できて、どのルートに価格を維持する力があるか、肌感覚で知っている人間は、そう多くありません。
現地ローカルの流通網に入り込めているかどうかは、外から見えない
現地の食品流通は、長年の取引関係と信頼の上に成り立っています。誰と組めば価格を維持しながら量を出せるか。これは現地で時間をかけて積み上げてきた人間関係の中にしかなく、ちょっとやそっとの滞在歴では入れない世界です。
その人が本当に流通の中に入れているかどうかは、外から見てもわかりません。「タイ在住のコーディネーターです」という肩書きだけでは、何もわからない。でも多くの企業がそこを確認しないまま任せてしまう。
和牛業者の方が抜け出せずにいたのも、結局ここでした。タイ在住と現地を知っているは、まったく別の話です。
ノルウェー(NSC)が勝ったのは商品力じゃない。誰と組んで市場を設計したかだ
最初の話に戻ります。なぜノルウェーはタイ市場でこれほど強いのか。
サーモンの品質が突出して高いから、というだけではありません。NSC(ノルウェー水産物審議会)という国家組織が、タイのバイヤー・シェフ・消費者に向けて、年単位で市場を丁寧に設計し続けてきたからです。どの流通に入るか、どう認知を広げるか、誰と組んで棚を押さえるか。個別の企業が単体で動くのではなく、産業全体として仕掛けを作ってきた。
その結果が、5年で140%成長であり、生鮮サーモン98%のシェアです。
翻って、日本の食品企業はどうか。品質は世界トップクラスです。でも、タイで誰と組んで、どこに売って、どう認知を広げるかの設計を持っている会社は、まだ多くありません。現地視察で「売れそうだ」という感触を持ち帰って、なんとなく繋いでもらった仲介者に任せて、気づけば儲からない構造に入ってしまっている。
ノルウェーに5年かけてシェアを積み上げられた間、多くの日本企業は動けていませんでした。タイのバイヤーは、一度信頼したサプライヤーを簡単に変えません。今から入ろうとするなら、最初の一手をどこに打つかが、すべてを決めます。
タイ食品輸出の販路開拓で、組む相手を間違える前に
タイで日本の食材を売ろうとするとき、最初の一手が後のすべてを決めます。誰と組んで、どのルートから入るか。ここを間違えると、入れても儲からない状態が固定されてしまいます。
私はタイに18年いて商社時代にはシーフードをはじめとした食品の取引にも関わってきました。現地の食品流通がどう動いているか、どこに繋ぐべきか、どこを避けるべきか、肌感覚で知っています。
WITHTH AIでは、タイの現地法人を持ち、現地に根ざしたネットワークを活かして以下を対応しています。
- タイ国内の食品ディストリビューター・卸業者の紹介・マッチング
- 現地バイヤーへのアプローチ・商談同席・通訳・フォロー
- FDA登録パートナーへの紹介
- 販路開拓の戦略設計
「まずタイ市場の感触を確かめたい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。現地を知っている人間と組むのと、そうでない人間に任せるのとでは、1年後の結果がまったく違います。
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