冷凍食品をタイに輸出しようとして、商品の魅力より先に、輸送費で採算が崩れる。私自身、日本のアイスクリームの輸入を調べたときにそうなりました。
北海道発の冷凍チーズケーキ「CHEESE WONDER」が、2026年11月5日からタイで期間限定販売されます。華やかなニュースですが、私が気になったのは別のところです。冷凍のスイーツをタイまで運んで、あの価格で売る。その裏にある物流と採算の設計です。
私はタイで18年、ビジネスに携わってきました。大手商社タイ支店では13年、輸出入と営業の現場にいました。今はタイ法人を持ち、現地での契約や貿易実務を自分で動かしています。その立場から、このニュースを「輸出する側」の目線で読んでみます。
北海道発CHEESE WONDERがタイ上陸。サイアムパラゴンで2か月間の期間限定販売
タイの経済メディアBrand Inside(2026年10月22日付)の報道によると、概要は次のとおりです。
- 販売期間・場所:11月5日〜1月15日、サイアムパラゴンG階のGourmet Eats
- 価格:クラシック2個入りで470バーツ、4個入りで890バーツ
- 導入した人:コーヒーチェーン「BEANS Coffee Roaster」を運営するグループの経営者が、Ministry of Lifeの経営者と共同で導入。2人ともシンガポールのポップアップで食べたことがきっかけ。輸入名義や物流会社との契約内容は公表されていない
- 入荷の仕方:北海道から週ごとに輸入。鮮度が必要なため、売り切れたら翌週の入荷待ち。Positioning Magazineは、輸送は北海道からのAir Cargo(航空貨物)の週次便と伝えている
- 計画:2か月で計3万点を輸入する計画と報じられている。売上目標は約1,400万バーツ
- 価格の説明:日本の販売価格より約10%高いと報じられている(比較基準は確認できず)。Brand Insideは、輸入コストのためと説明
- 交渉期間:7か月以上
- その先:開始2週間後から、スワンナプーム空港とドンムアン空港でもポップアップを予定。価格はパラゴンより約20%高い
最初に線を引いておきます。3万点も1,400万バーツも報道に出ている計画値で、販売実績ではありません。利益が出ている証拠でもありません。この記事では、CHEESE WONDER側の採算が合っているかどうかは論じません。外からは見えないからです。
見たいのは、「同じことを自社の冷凍食品でやろうとしたら何が起きるか」です。
冷凍は小ロットだと輸送費が重い。期間限定と継続販売で、物流の正解は変わる
アイスクリームの輸入を調べたら、輸送費で採算が合わなかった
以前、日本のアイスクリームをタイに入れられないかと調べたことがあります。結論は、輸送費で採算が合わないでした。
常温貨物なら、他社の貨物と相乗りして1個あたりの輸送費を抑える混載が一般的です。冷凍貨物にも混載サービスはありますが、仕向地や温度帯、出荷数量によっては使えないことがあります。混載が使えず、冷凍コンテナを単独で押さえることになれば、小ロットでは商品1個あたりの輸送費が大きくなります。
冷凍食品の輸出では、商品単価だけでなく、必要な温度帯を保ったまま、どの輸送方法を使えるかを先に確認する必要があります。物流でつまずく日本企業の共通点は、こちらの記事にまとめています。
毎週、北海道から航空貨物で冷凍輸送。採算をどう設計しているのか
報道によると、CHEESE WONDERは鮮度が必要なため北海道から毎週輸入し、売り切れたら翌週の入荷を待つ運用です。Positioning Magazineは、輸送は北海道からのAir Cargo(航空貨物)の週次便と伝えています。
タイでの販売価格はクラシック4個入りで890バーツ。日本の販売価格より約10%高いと報じられていますが、日本のどの価格を基準にした数字なのかは確認できていません。私が気になったのは、この価格差よりも、冷凍食品を毎週、航空貨物で運ぶ仕組みのほうです。
冷凍食品の輸出では、航空運賃だけでなく、到着後の冷凍保管、配送、在庫管理にも費用がかかります。運賃の実額、1回あたりの出荷数量、共同輸送の有無、現地の保管費、利益率は公表されておらず、CHEESE WONDERの採算は判断できません。推測で書くこともしません。
アイスクリームの輸入を調べたとき、輸送費が採算を崩す要因になりました。毎週運ぶ仕組みを考えるなら、輸送頻度だけでなく、1回あたりの数量、現地での在庫の回転、保管期間まで含めて採算を組む必要があります。
空輸か海上か。賞味期限の何日を輸送に使えるか
一般に、空輸は速いけれど単価が高く、海上は安いけれどコンテナ単位で日数がかかります。冷凍の場合、この選択が「賞味期限のうち何日を輸送と通関に使うか」に直結します。
CHEESE WONDERのタイ向け商品の賞味期限は、確認した報道には出ていません。自社で輸出するなら、製造日からの期限に加え、輸送・通関・保管を経て販売できる日数がどれだけ残るかを確認する必要があります。
期間限定と継続販売では、答えが変わる
報道では、空港のポップアップの価格はパラゴンより約20%高く、理由は変動するコストに応じたものと説明されています。内訳は公表されていません。
期間限定の催事なら、価格を高めに設定して売り切るという選択肢があります。一方、継続販売では、同じ価格が通る売り場ばかりとは限りません。輸送手段もロット設計も、継続前提で組み直す必要が出てきます。「催事で売れたから、次は定番で」と進めるときには、物流の前提ごと、採算を検証し直す必要があります。
販売価格の差だけでは、輸出の採算は読めない
「約10%高」の中身は、外から見えない
報道では、日本のポップアップより約10%高い価格で、輸入コストを乗せた結果であり、利益率は高くないと説明されています。ここで気をつけたいのは、10%という数字だけでは採算は読めないことです。何と比べた10%なのか(どの店舗の、いつの価格か)は報道から読み取れません。そして、輸送費・関税・VAT・保管費・販売手数料のうち、どれがどの段階で誰の負担になっているかも見えません。
同じ「10%差」でも、貿易条件が違えば意味が変わります。工場渡しなのか、関税と輸入諸費用まで売り手が持つ形なのか。コストを負担する人が違えば、利益が残る人も変わります。
原価計算は、費目ごとに「誰が持つか」まで決める
| 費目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 冷凍輸送費 | 貿易条件でどこまで売り手が持つか。ロット別の単価 |
| 関税・VAT | 関税を誰が負担するか。輸入VATは仕入税額控除の対象になるかで実質の負担が変わるため、納付する資金を誰が出すかも決める(詳細は関税・VATの記事) |
| 冷凍倉庫の保管費 | 保管日数の想定。売れ残った場合の追加日数 |
| 販売手数料 | 売り場ごとの率。催事と常設で違う |
| 返品・廃棄 | 賞味期限が切れた在庫を誰が負担するか |
この表を、自社の商品で埋められるでしょうか。冷凍輸送費の欄は、ロットごとに見積を取らないと埋まりません。保管費の欄は、売れ行きを読まないと埋まりません。
テスト販売と継続販売では、採算の構造が違う
テスト販売は、売り切って終わりという前提を置けます。継続販売になると、在庫の回転、保管日数、賞味期限の消費が効いてきます。テストで黒字に見えた数字を、そのまま継続の採算に使うのは危険です。
タイへの冷凍食品輸出は、FDA対応だけでは終わらない
FDAの手続きは大事ですが、それだけで輸出が完結するわけではありません。冷凍食品で、物流とセットで確認したい点だけ挙げます。
- FDA関連の手続き:食品のカテゴリーによって必要な手続きが変わります。自社商品がどの区分に入るかを先に確認します(詳細はタイFDAの記事)。
- 保管先の温度管理:港や空港に着いたあと、倉庫と配送の全工程で冷凍を保てるか。
- 賞味期限と日数:輸送と通関に使える日数を差し引いて、売れる期間が何日残るか。
物流全般の基礎はタイの物流事情の記事にまとめています。
現地パートナー選びで確認すべきこと
輸入者・販売会社・物流会社の役割分担
CHEESE WONDERの報道を見ると、BEANS側の経営者とMinistry of Lifeの経営者が共同で導入し、自ら売り場を確保して販売する形です。実際の輸入名義や物流会社との契約内容は公表されていません。ただ、メーカーが直接輸出して売るのではなく、導入と販売をタイ側が担っている形に見えます。
自社の場合、誰が輸入者になり、誰が売り、誰が冷凍で運ぶのか。1社が全部を担える相手は多くありません。
販売力だけでなく、冷凍物流への対応力も必要
売る力があっても、冷凍の輸入に慣れていない相手だと、通関や保管でつまずきます。逆に物流に強くても、売り場を持たなければ在庫が動きません。両方を見る必要があります。
在庫・返品・廃棄のリスクは、契約で決める
報道では、売り切れたら翌週の入荷を待つ運用です。在庫を抱えすぎない設計に見えます。自社でも、売れ残った冷凍在庫を誰が負担するのかは、契約に書いておかないと揉めます。
CHEESE WONDERは交渉に7か月以上かかったと報じられていますが、その理由は書かれていません。それとは別に、契約に落とす項目は自社でも必ず出てきます。価格の決め方、在庫の負担、物流の分担、契約期間、期間後の扱い。これをタイ語と現地の商習慣で詰める作業を、自社だけで進められるでしょうか。
日本の冷凍食品メーカーが、タイ輸出前に調べるべき5項目
| 確認項目 | 自社でやると詰まる点 | WITHTHAIが動くこと |
|---|---|---|
| 1. タイ市場の競合価格帯 | 日本の延長で価格を決めると外れる。現地の売り場を見ないと適正価格が出ない | 現地の売り場・競合の価格を調査 |
| 2. 輸出数量別の物流・保管費 | 見積に含まれる費目がバラバラで、比較できない | 数量パターン別に費用を試算 |
| 3. FDAなどの許認可と食品表示 | カテゴリーで手続きが変わり、タイ語対応も必要 | 手続きの確認と進行 |
| 4. 輸入者・物流会社・販売先の候補 | 日本からは候補そのものが見えない | 現地で候補を探し、面談に同席 |
| 5. テスト後の継続採算 | 催事で黒字でも、継続だと赤字になることがある | 継続前提で採算を組み直す |
タイへの冷凍食品輸出・市場調査は、WITHTHAIにご相談ください
この5項目を確認しないまま輸出を始めると、販売開始後に採算の問題が表面化する可能性があります。では、自社だけで確認しようとしたら、何から手をつけるでしょうか。
私はアイスクリームの輸入を調べたとき、輸送費の壁にぶつかりました。商品は魅力的でも、運ぶ仕組みが組めなければ、売り場には並びません。そしてその壁は、日本にいて見積を取り寄せるだけでは見えてきません。
WITHTHAIは、タイ法人を持ち、現地で契約や貿易実務を直接動かせます。次のようなご相談をお受けしています。
- 小ロット・継続販売それぞれの輸出コストの試算
- タイの輸入者・物流会社・販売先の候補調査と、面談への同席
- 食品輸出入・FDA関連手続きの支援
- 貴社の担当者さま向けの、輸出実務の講習
「自社の商品は、タイで採算が合うのか」。まずはそこから一緒に確かめましょう。

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