「タイで抹茶が流行っている」というニュースを見て、心のどこかで「日本産なら高く売れるはず」と思ったなら、一度立ち止まってほしいです。今、バンコクで起きているのは、その逆の現象だからです。
2026年9月25日、タイの大手外食グループ・セントラル レストランズ グループ(CRG)が、新ブランド「I’M MATCHA」の1号店をセントラル・ラプラオ2階にオープンしました。鹿児島・八女・静岡・宇治という日本の産地を明示し、95バーツから販売しています。
その2ヶ月半前の7月、まったく別のタイの小規模ブランドが、サイアム・パラゴンで抹茶のポップアップストアを始めていました。こちらも日本産抹茶にこだわり抜いています。それも、40〜50種類を飲み比べた末に。価格は75バーツからです。
CRGは95バーツから、姉妹ブランドは75バーツから。日本産にこだわり抜いた上で、どちらも100バーツを切っています。日本企業が見落としがちな、タイ市場の現実がここに集約されています。
タイで「抹茶」が4億バーツ市場に。大手CRGも参入
CRGはミスタードーナツ、KFC、大戸屋、かつやなど、タイで数々の飲食ブランドを展開してきた会社です。そのCRGが発表した資料によると、タイの抹茶市場規模は約4億バーツ、成長率は14.8%とされています。
CRGはこの市場について「抹茶自体はもう一過性の流行ではなく、タイ人の生活の一部になった。ただし、質の良い抹茶は価格が高く、日常的に飲めるものではなかった」という認識を示しています。そこから生まれたのが「Ceremonial Quality & Everyday Accessibility(儀式用グレードの品質を、日常価格で)」というコンセプトです。
| 産地 | Clear(税抜目安) | Latte(税抜目安) |
|---|---|---|
| 鹿児島 | 95バーツ | 130バーツ |
| 八女 | 100バーツ | 140バーツ |
| 静岡 | 130バーツ | 165バーツ |
| 宇治 | 140バーツ | 175バーツ |
猫のキャラクター「マッチャン(Matchan)」をブランドマスコットに据え、Gen Zや若手社会人を狙う設計まで作り込んでいます。産地を4つ横並びで見せて選ばせる、いわば「デパ地下的」な戦略です。
それだけじゃない。同じ「日本産」を掲げる、もう1つのタイブランド
「ฉันจะกินชาเขียวทุกวัน(毎日緑茶を飲む)」は、タイ人に人気の紅茶チェーンが手がける新ブランドです。2026年7月、サイアム・パラゴンでポップアップストアを展開しました。
このブランドを面白いと思うのは、CRGのような大企業ではなく、姉妹2人で経営する会社だという点です。それでも、原料選びの姿勢はCRGに劣りません。運営者は取材でこう語っています。
開発段階で日本産に限定して40〜50種類を試飲したこと。最終的に選んだのは八女抹茶で、グレードは「Ceremonial A5」。しかも、日本の茶園まで直接ソーシングに行けるパートナーを得た上での選定だった、とのことです。
つまり、原料調達の努力量だけで見れば、CRGにまったく引けを取りません。それでいて、抹茶メニューは75バーツから。CRGの鹿児島(95バーツ〜)より安い設定です。
「日本産」は、もはや高価格の言い訳にならない
CRGは4産地から選ばせて95バーツから。姉妹ブランドは40〜50種類から1つに絞り込んで75バーツから。どちらも「日本産であること」は一切妥協していません。
ここで気づいてほしいのは、「日本産だから高くて当然」という前提そのものが、もうタイ市場では通用しないということです。むしろタイの事業者側のほうが、原料へのこだわりも、値付けの柔軟さも、両方持っています。
現地企業の方がタイ人への売り方を知っている
価格設計、モール立地、猫キャラクターのようなブランディング、Gen Z狙いの世界観づくり。これらはすべて、現地の消費者を日々観察している企業だからこそ出てくる発想です。日本企業が「本物の日本産です」「八女です」「宇治です」という産地の看板だけで勝負しようとすると、ここでズレが生まれます。「日本産」だけでは差別化になりにくくなっている。さらに宇治、八女、静岡、鹿児島と産地まで比較される段階に入っています。
タイで抹茶を売るとき、「完成品」と「原料」ではまったく別の商売になる
ここから先は、ニュースの整理ではなく、実際に日本から動かす場合の話です。私は大手商社タイ支店で13年間、化学品の輸出入と国内営業を担当してきました。現在は食品を含むタイ向け輸出・許認可の相談にも対応しています。実務上、タイへの輸入は「何を、誰が、どのような形で持ち込むか」によって確認事項が変わります。
完成品を輸出してB2C販売する場合
販売目的で食品をタイへ輸入する場合、タイFDAの案内では、まず食品輸入の許可申請(แบบ อ.6)を行い、審査・承認後に食品輸入許可証(แบบ อ.7)が発行されます。そのうえで、輸入する食品のカテゴリーに応じた商品側の手続きを確認する必要があります。
タイ税関側も、販売目的で食品を輸入する場合は食品法(Food Act B.E.2522)第15条に基づき、輸入前に許可を得る必要があると明記しています。輸入者登録、通関に加えて、FDAなど関係機関の許可を別途満たす必要がある点は、税関自身が案内している内容です。
完成品輸出は、これに加えてタイ語ラベル対応、現地の輸入者・販売パートナー選定、そして小売価格からの逆算が必要になります。関税・VAT・物流費を積み上げてから小売価格に合わせるのではなく、タイの店頭価格(今回紹介した2ブランドの価格帯、75〜175バーツ)から逆算して、自社の商品がその価格帯に入れるかを先に確認する必要があります。
抹茶原料をタイ企業へB2B供給する場合
一方、日本から完成品を持ち込むのではなく、タイのカフェ、飲食チェーン、食品メーカーなどへ抹茶原料を供給するという選択肢もあります。
ただし、「原料だから輸出が簡単」とは限りません。誰がタイ側の輸入者になるのか、どの状態・用途で輸入するのか、誰がFDA対応を担うのかによって、確認すべき手続きや必要書類は変わります。輸出する商品の仕様と取引スキームを決めないまま、「抹茶をタイに売りたい」だけでは具体的な輸入手続きは決められません。
そしてB2Bの場合、輸入手続きとは別に、もう一つ大きな問題があります。「数ある日本産抹茶の中から、なぜ自社の商品を選んでもらえるのか」です。
今回紹介した「ฉันจะกินชาเขียวทุกวัน」は、40〜50種類もの抹茶を比較した末に八女抹茶を選んでいます。つまり日本企業にとっての競争相手は、タイ産や中国産だけではありません。同じ日本産の抹茶同士でも比較されます。産地、品質、価格、供給量、取引条件などを含めて、「日本産」という看板の先に選ばれる理由が必要になります。
「タイで抹茶が売れている」を見て、自社は何を輸出しますか?
CRGは4産地の中から選ばせて、95バーツから売っています。ある会社は40〜50種類を比較した末に八女を選び、75バーツから売っています。
では、自社の抹茶をタイへ持っていくとしたら、御社はどちらのポジションに入るのでしょうか。完成品として売るのか、原料として卸すのか。価格はどちらの相場で戦うのか。競合は日本企業だけではありません。すでにタイ企業が、日本産抹茶を使ってタイ人向けの商品を作っています。
そして原料として売るなら、40〜50種類の候補と比較されたときに、なぜ自社の抹茶が選ばれるのか説明できるでしょうか。
現地に行かずに、この2社の店舗を実際に見て、価格とメニュー設計の違いを比較できますか。それが今できないなら、輸出の手続きを進める前に、まず市場を確認する余地があります。
WITHTHAIでは、タイの市場調査・競合調査に加えて、現地企業の調査、販売先候補のリストアップ、商談・営業支援まで対応しています。今回のようにタイ語の一次情報を直接あたる調査も含めて、まずは自社の商品がどちらの土俵に立つべきか、一緒に整理するところからお手伝いできます。

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