「タイは暑い国だから、ゴキブリ対策グッズは売れるはず」――そう考え、日本でよく売れているゴキブリシートをタイ市場に営業したことがあります。
大手商社の海外営業をしていた当時、現地の気候や生活環境を考えれば需要はあるはずだと考えていました。しかし、実際に営業してみると結果は予想外でした。
タイ市場では、日本の常識とはまったく違う消費文化が存在します。本記事では、私の実体験をもとに「タイではゴキブリシートが売れない理由」と海外ビジネスで多くの企業が陥る勘違いについて解説します。
日本ではゴキブリ対策グッズはよく売れる
日本では、ゴキブリ対策グッズは日用品として大きな市場を持っています。ドラッグストアやホームセンターでは、ゴキブリシート、毒餌、スプレー、燻煙剤など多くの商品が並び、家庭での害虫対策は一般的な生活習慣になっています。
日本では「家にゴキブリが出ること」自体が強い嫌悪感を伴う出来事として認識されています。そのため、発生してから対処するのではなく、発生を防ぐための商品が継続的に購入されるのが特徴です。
実際、日本の家庭用殺虫剤市場は約900億円規模とされており、その中でもゴキブリ対策商品は主要カテゴリーの一つです(富士経済「家庭用殺虫剤市場調査」)。このように、日本ではゴキブリ対策は日常的な消費市場として確立されています。
日本の住宅文化
日本の住宅は、基本的に「清潔で害虫がいない状態」を前提とした生活文化の上に成り立っています。家の中に虫がいること自体が異常と考えられ、多くの家庭で定期的に害虫対策が行われています。
特に都市部では、集合住宅や密閉性の高い住宅が多く、ゴキブリが発生すると生活環境へのストレスが大きくなります。そのため、予防的にゴキブリシートを設置したり、定期的に薬剤を使用したりする家庭も少なくありません。
つまり、日本では「ゴキブリが出ない家を維持する」ことが生活の常識になっており、それが対策グッズの需要を支えています。
ゴキブリ対策市場の大きさ
日本では家庭用殺虫剤市場の中でも、ゴキブリ対策商品は特に安定した需要を持つカテゴリーです。富士経済の市場調査によると、日本の家庭用殺虫剤市場は約900億円規模で推移しており、その中でゴキブリ対策商品は数百億円規模の市場を形成しています。
ドラッグストアでは一年中関連商品が販売され、気温が上がる夏前には売り場が大きく拡張されるのが一般的です。メーカー各社も新商品や改良商品を継続的に投入しており、長年にわたって安定した市場が維持されています。
つまり、日本ではゴキブリ対策は特別な商品ではなく、生活必需品に近い存在です。
この日本の感覚からすると「暑い国でゴキブリが多いタイなら、もっと売れるのではないか」と考えるのは自然な発想です。実際、私も最初はそう考えていました。
暑い国タイなら売れると思った
私がこの商品をタイ市場で扱ったのは、商社時代にタイで営業をしていた頃のことです。日本でよく売れているゴキブリ対策グッズを見て、最初は「これはタイでも需要があるはずだ」と考えていました。
理由は単純です。
タイは一年中気温が高い国です。害虫が発生しやすい環境であり、日本よりもゴキブリが多い地域も少なくありません。しかも、タイのゴキブリは日本よりも大きいですし、よく見かけます。
そのため、
暑い国
↓
ゴキブリが多い
↓
対策商品の需要があるはず
という、ごく自然な仮説を立てました。
実際、日本の企業が海外ビジネスを考える際にも、このようなロジックで市場を判断することは珍しくありません。気候や環境条件から考えれば、確かにタイは害虫対策商品の需要があってもおかしくない市場です。
そこで私は実際にタイの企業へ営業を行い、工場や事業者向けにゴキブリ対策商品の提案をしてみました。
しかし、この仮説は結果的に大きく外れることになります。タイ市場では、日本の常識とはまったく違う反応が返ってきたのです。
まったく売れなかった
しかし、実際にタイで営業してみると、結果は想像とはまったく違いました。ゴキブリは確かに多いのですが、日本のように「対策グッズを買う」という発想がほとんどなかったのです。
当時、私は工場や事業者向けに商品を提案していました。工場は従業員数も多く、食堂や休憩スペースもあるため、日本の感覚で言えば害虫対策のニーズがありそうな環境です。ところが、担当者の反応は意外なものでした。
「確かにゴキブリはいるけれど、わざわざ商品を買うほどではない」というのが多くの企業の感覚だったのです。
結局、日本からわざわざ取り寄せたゴキブリシートは、全く売れず。
どうなったかというと、残してても仕方がないのでタイ人スタッフに配ったり、会社の食堂に置いて消費しました。笑
この経験から、日本で当たり前に売れている商品でも、海外市場では必ずしも同じように売れるとは限らないことを実感しました。タイ市場では、そもそもゴキブリ対策に対する考え方が日本とは大きく違っていたのです。
なぜタイでは売れないのか
タイで営業していて最も驚いたのは、ゴキブリの存在に対する感覚そのものが日本と大きく違うことでした。日本では強い嫌悪感の対象ですが、タイではそこまで特別な存在ではありません。この違いがゴキブリ対策市場の大きさにも影響しています。
ゴキブリが日常
タイでは気温が高く、自然環境も豊かなため、虫がいること自体は珍しいことではありません。住宅や店舗、屋台など、さまざまな場所で虫を見ることがあります。
もちろん衛生意識が低いわけではありませんが、日本のように「絶対に家の中に出てはいけない存在」とまでは考えられていないのが実情です。実際、現地の人と話していても、ゴキブリが出たこと自体を深刻な問題として捉えるケースはあまり多くありません。
そのため、日本のように「事前に対策グッズを買って予防する」という習慣が広く定着していませんでした。
対策文化が違う
もう一つ大きな違いは、害虫への対処方法です。日本では市販の対策グッズを購入して家庭で管理する文化があります。一方、タイでは必要に応じてスプレーを使う程度で常設型の対策商品を継続的に購入する習慣はあまり一般的ではありません。
この文化の違いを整理すると次のようになります。
日本
ゴキブリ = 強い嫌悪感
→ 家に出ないように予防商品を購入
タイ
ゴキブリ = 日常の一部
→ 出たらその場で対処
つまり、タイではゴキブリの存在自体が特別な問題として認識されにくいため、日本のような大きな対策商品市場が形成されにくいのです。こうした消費文化の違いは、タイビジネスや海外ビジネスを考えるうえで非常に重要なポイントになります。
海外ビジネスでよくある勘違い
海外ビジネスを検討する際、日本企業が最初に注目するのは「市場規模」や「経済指標」であることが多いです。例えば、人口が多い、GDPが成長している、気候的に商品が合いそう、といった要素から市場の可能性を判断するケースは少なくありません。
今回のゴキブリ対策商品の例も、まさにその典型でした。
タイは一年中暑く、虫も多い国です。そのため、
暑い国
↓
ゴキブリが多い
↓
対策商品は売れるはず
というロジックは、一見すると非常に合理的に見えます。
しかし、実際のタイ市場ではこの仮説は成立しませんでした。
理由は単純で、消費文化そのものが日本と違うからです。
海外市場では、商品が売れるかどうかは単純な環境条件だけでは決まりません。
むしろ大きく影響するのは次のような要素です。
・文化や価値観
・生活習慣
・購買行動
・流通構造
私がタイで営業していて何度も感じたのは「数字だけでは市場は見えない」ということです。
人口やGDPが伸びていても、その商品を買う文化がなければ市場は生まれません。
海外ビジネスでは、統計データ以上に現地の生活や消費文化を理解することが成功の鍵になります。
海外市場を理解するために重要なこと
海外ビジネスを成功させるためには、単に市場規模や人口データを見るだけでは不十分です。実際に商品が売れるかどうかを左右するのは、現地の生活の中でその商品が「必要とされるかどうか」です。
その判断をするうえで特に重要になるのが、次の3つの視点です。
・現地の生活習慣
・流通構造
・消費文化
例えば今回のゴキブリ対策商品のケースでも、日本では当たり前に売れている商品ですが、タイではそもそも日常生活の中で「予防商品を常設する」という習慣がありませんでした。つまり、商品そのものの性能ではなく、生活習慣の違いによって市場が成立していなかったのです。
また、海外市場では流通構造も重要な要素です。どのチャネルで商品が売られているのか、誰が購買決定をするのか、どの価格帯が受け入れられるのかといった点を理解しなければ、商品を持ち込んでも売れる仕組みを作ることができません。
私自身、タイで長くビジネスをしてきて強く感じるのは、机上の市場分析だけでは本当の市場は見えないということです。現地の生活や価値観を理解して初めて、その国で本当に売れる商品や売り方が見えてきます。
まとめ
今回紹介した「タイではゴキブリシートが売れない」という事例は、海外ビジネスの難しさを象徴するケースです。日本で成功している商品であっても、そのまま海外で売れるとは限りません。
日本ではゴキブリは強い嫌悪感の対象であり、予防商品を購入して対策する文化があります。そのためゴキブリ対策グッズは大きな市場を持っています。一方、タイではゴキブリの存在がそこまで特別なものではなく、予防商品を常設する習慣も一般的ではありません。
つまり、市場を決めるのは気候や人口ではなく「消費文化」です。
海外市場を考える際に重要なのは次の3つです。
・現地の生活習慣
・流通構造
・消費文化
これらを理解せずに日本の成功モデルをそのまま持ち込むと、思わぬ形で市場に合わないことがあります。
私はタイ在住18年、商社で13年間タイビジネスに携わり、現地企業との商談や輸出入の実務を数多く経験してきました。現在はその経験をもとに、日本企業向けにタイ市場の販路開拓や海外進出支援を行っています。
もし「タイ市場で自社の商品が売れるのか知りたい」「タイ進出の可能性を検討したい」とお考えでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。現地の消費文化や流通構造を踏まえた現実的な市場分析と戦略をご提案します。

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