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2025年版|タイ経済と成長産業を徹底解説:Krungsri銀行が示す“真の注目分野”とは?

タイ経済は今、静かな転換期を迎えています。Krungsri銀行の最新レポートによると2025〜2027年のGDP成長率は年2.8%前後と安定的に推移する一方、かつて経済を牽引してきた観光業は中国人観光客の減少で苦戦を強いられています。その代わりに注目されているのが、ヘルスケア、デジタル経済、ESG関連といった「新たな成長エンジン」です。中間層の消費拡大や外資投資の流入を背景にタイ市場は観光依存から脱却しつつあります。

本記事では、Krungsri銀行の分析をもとに、2025年のタイ成長産業と日本企業にとっての新たなビジネスチャンスを詳しく解説します。
※こちらの記事は2025年7月のものになります。

目次

タイ経済の全体像:緩やかな回復と構造変化

Krungsri銀行の最新レポート概要

Krungsri銀行が発表した「Thailand Industry Outlook Summary 2025–2027」によるとタイ経済は今後3年間で年平均約2.8%の安定成長が見込まれています。コロナ禍以降の景気回復が進む一方で従来の「観光依存型モデル」から脱却し、内需拡大や産業構造の転換が加速しています。同レポートでは政府による景気刺激策や外資誘致政策の成果が着実に現れており、特に製造業・デジタル経済・ヘルスケアなど非観光分野が成長を牽引すると指摘しています。

GDP成長率の見通し(2025〜2027年:年2.8%前後)

Krungsriによると、2025〜2027年の実質GDP成長率は2.8%前後で推移する見込みです。輸出の回復は緩やかですが、政府支出や民間消費が堅調に推移し、全体としては底堅い拡大が続くとされています。特に公共投資やデジタル関連インフラ整備が成長を支える要因となり、ASEAN諸国の中でも安定した経済基盤を維持する見通しです。

H3:成長を支える3要因

① 内需回復(政府のデジタルウォレット施策)

タイ政府は2024年から「デジタルウォレット」政策を開始し、1人あたり1万バーツを支給するなど、消費喚起に積極的です。これにより地方経済にも現金が循環し、小売・飲食・日用品分野で需要が拡大しています。

② 外資投資の流入(EV・再エネ・テック)

外国直接投資(FDI)はEV(電気自動車)や再生可能エネルギー、データセンターなど新産業に集中しています。特に中国・日本・韓国からの製造関連投資が増加しており、東部経済回廊(EEC)を中心に国際的な産業集積が進んでいます。

③ 中間層の購買力上昇

タイの中間層はASEANでも購買力が高く、2025年時点で一人当たりGDPは7,600ドルを超える見込みです。所得の向上とともに、健康・美容・レジャーへの支出が増加しており、新しい消費市場として注目されています。

インフレと為替の安定化、金利動向

インフレ率は2025年に2.0〜2.5%と安定的に推移し、バーツ相場も過度な変動は抑えられる見通しです。タイ中央銀行は段階的な利下げを検討しており、企業の借入コストは緩和傾向にあります。これにより中小企業の投資環境はさらに改善が期待されます。景気の土台が整いつつある今こそ、日本企業にとっても新たなタイ市場参入の好機といえるでしょう。

観光業は「回復」ではなく“再構築期”へ


中国人観光客が戻らない現実(前年比マイナス40%以上)

Krungsri銀行のレポートによると、観光業は依然としてタイ経済の重要な柱であるものの、回復ペースは予想を下回っています。中国人観光客の戻りが鈍く、2024年時点でコロナ前比マイナス40%以上の水準にとどまっています。航空便の再開遅れや中国国内の景気低迷が影響しており、タイ政府も目標としていた年間観光客数の達成が困難な状況です。

観光業界の苦戦:宿泊・飲食・ツアー会社の再編が進行

観光需要の地域偏りが拡大し、バンコクやプーケットなどの主要観光地では競争が激化。一方、地方では宿泊・飲食・ツアー会社の閉業や買収が進み、業界再編の波が起きています。Krungsriの分析でも「今後は観光業の“量的拡大”よりも、付加価値の高い観光モデルへの転換が不可欠」と指摘されています。

国内旅行・ASEAN域内観光客へのシフト

中国依存のリスクを軽減するため、タイ政府はASEAN域内やインドからの観光客誘致に力を入れています。特に国内旅行市場は堅調で、地方都市を中心に「週末旅行」や「短期リトリート型宿泊」が人気を集めています。

観光の「量」から「質」へ:体験型・ウェルネス旅行が主流に

近年のトレンドとして、観光客は単なる観光地巡りではなく、“体験価値”を求める傾向が強まっています。ウェルネス、伝統医療、自然と融合したスパリゾートなど、体験型観光が伸びており、今後は「観光×健康」「観光×文化」の複合型ビジネスが主流になると考えられます。

日本企業が取るべき視点(地方観光・コラボ施策など)

この変化は日本企業にとってもチャンスです。地方自治体や観光関連企業は、タイの新しい旅行志向に合わせた「体験価値型プロモーション」や「地域文化との連携」を進めるべきでしょう。たとえば、タイのウェルネス志向と親和性の高い“食・温泉・自然体験”の組み合わせは、日本各地の観光地でも展開可能です。

タイの観光業については、関連記事【観光大国タイから学ぶ② “黄金期の終わり”――タイ観光が抱える構造的疲弊と、日本への警鐘】で解説しています。

2025年の成長を牽引する3大分野
Krungsri銀行が注目する「観光以外」の成長エンジン

Health & Wellness(健康・医療・美容)

Krungsri銀行のレポートによるとヘルス&ウェルネス産業は今後のタイ経済を支える主要分野の一つとされています。タイ政府が推進する「医療ハブ構想」により、医療ツーリズム・スパ・介護・高齢者向け住宅などが拡大しています。高齢化社会の進行と健康志向の高まりを背景に病院やクリニックの再整備も進み、外国人患者の受け入れ体制が強化されています。日本企業との親和性も高く、医療機器、化粧品、サプリメント分野では提携やOEM製造のチャンスが広がっています。私は大学時代にタイの病院で日本語通訳として働いてましたが、中東からの医療ツーリズムが多かったです。東南アジアではタイはレベルの高い医療を受けれると20年前から人気です。

デジタル経済とeコマース

デジタル経済も急成長中です。Krungsriによると2024年のタイ国内EC市場規模は約28兆バーツに達し、今後も年率7〜8%の成長が見込まれます。SNSと連動したライブコマースが主流化し、個人販売者から大手企業までがオンライン販売を強化しています。また、クラウド・データセンターへの投資も増加しており、Googleやアリババといった海外IT企業の進出も目立ちます。デジタルインフラが整うことで中小企業でも低コストで市場参入できる環境が整いつつあります。

こちらの記事でタイ人がいかにSNSを活用しているか書いてます。

環境・ESG関連ビジネス

もう一つの注目分野は環境・ESG(環境・社会・ガバナンス)関連産業です。政府は脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギー政策を強化しており、太陽光・風力・バイオマス発電の導入が加速しています。Krungsriの分析では、廃棄物管理やカーボンクレジット取引支援など新たなビジネスモデルが登場していると指摘。日本企業にとっても環境技術や測定システムの輸出、再エネ事業での合弁参入などの可能性が広がっています。これらの分野は観光に依存しない持続可能なタイ経済の中核として、今後さらに存在感を増していくでしょう。

ライフスタイル分野の新潮流:ペット・スピリチュアル・エンタメ

ペット市場が急成長(2025年5,000億バーツ規模)

Krungsri銀行のレポートによるとタイのペット関連市場は今後も拡大が続き、2025年には約5,000億バーツ規模に達すると予測されています。背景には都市部を中心とした「ペット=家族」と捉える価値観の浸透があります。フード、医療、ファッション、宿泊サービスなど、ライフスタイル全体に関連するビジネスが広がっており、富裕層だけでなく中間層にも裾野が広がっています。ペット向け商品開発や医療機器分野では、日本企業の技術力を生かせる余地が大きく、今後の協業機会が期待されます。

ムー信仰や寺院観光など“信仰消費”が伸びる

近年のタイでは「ムー信仰(超自然的・開運信仰)」や寺院関連ビジネスが新たな消費トレンドとして注目されています。Krungsriの分析でも、若年層の間で開運アクセサリーや祈祷旅行の需要が高まっており、信仰をテーマにした体験型ツアーやSNS発信が人気を集めています。宗教やスピリチュアルを背景にした“体験価値型マーケティング”は、タイ人消費者の心をつかむ重要な手法になりつつあります。インドへの開運ツアーは常に人気です。また、タイ人のインフルエンサーが出雲大社を紹介していました。タイ人は日本人よりもスピリチュアルには敏感です。

観光の構造変化については、関連記事【観光大国タイから学ぶ② “黄金期の終わり”――タイ観光が抱える構造的疲弊と、日本への警鐘】(https://withthai.jp/2025/10/26/learn-from-thailand-tourism-decline/)でも詳しく解説しています。

映画・ドラマ輸出が増加、Netflixなど海外プラットフォーム進出

エンタメ産業もタイ経済を支える新しい柱に成長しています。Krungsriによると、映画・ドラマ制作会社の数は近年急増しており、NetflixやDisney+などの国際プラットフォーム向け作品が増えています。高い映像技術と豊かな文化背景を武器に、タイは「アジアのコンテンツ拠点」として注目を集めています。日本企業にとってもコンテンツ共同制作やロケ地誘致、映像関連技術の輸出など、多様なビジネスチャンスが広がる分野といえるでしょう。

Krungsriが語る:中小企業・海外企業に訪れる“ゴールデンタイミング”

SME向けローン支援(Quick Loan制度)

Krungsri銀行の最新レポートでは、2025年以降のタイ経済を「中小企業にとっての好機」と位置づけています。その理由の一つが資金調達環境の改善です。同行は「Quick Loan(クイックローン)」と呼ばれる中小企業向け融資制度を拡充しており、最長12年の返済期間で最大1,500万バーツまでの借入が可能です。金利や審査条件も柔軟に設定されており、スタートアップや地方の中小事業者が事業拡大に踏み出しやすい仕組みになっています。これにより現地企業だけでなく、タイでの新規展開を狙う外国企業にも資金面での支援が期待できます。

外資・日系企業が参入しやすい政策と補助制度

タイ政府は外資誘致を積極的に進めており、東部経済回廊(EEC)を中心とした優遇税制が整備されています。EV、クリーンエネルギー、デジタル産業などへの投資には、法人税減免やインフラ支援が適用されます。また、BOI(投資委員会)の承認を受けたプロジェクトは外国人の就労ビザ取得も容易になり、実務面でのハードルが大幅に下がっています。こうした制度は製造業だけでなく、サービス業・IT関連企業にも開かれており、日本企業にとっても現地法人設立や業務提携を進めやすい環境といえるでしょう。

中小企業がタイ現地パートナーを探すべき理由

タイ市場で成功するには信頼できる現地パートナーとの連携です。販路開拓・通関・商習慣対応など、実務を熟知したパートナーがいれば、リスクを抑えつつスムーズに市場参入できます。中小企業の場合、自社単独での進出には限界があるため、現地ネットワークを活用することが成功の近道です。タイ語での交渉や法規制への理解も重要であり、専門家による支援が効果的です。Withthaiでは、こうした現地マッチングや輸出入支援を通じて、日本企業の円滑な事業展開をサポートしています。

まとめ:タイ経済の未来を読む — “観光頼みではない成長軸”へ

観光は再構築中だが、タイ経済はむしろ広がっている

Krungsri銀行のレポートでは観光業の鈍化を懸念しつつも、タイ経済全体は安定した成長軌道にあると指摘されています。観光が低迷しても、健康・デジタル・環境などの分野が新たな柱として拡大しており「観光頼みの経済」から脱却する兆しが明確に見えています。内需拡大や外国直接投資(FDI)の増加が経済を下支えしており、タイは今後もASEANの中核的な市場として存在感を高めていくでしょう。

日系企業が参入できる成長余地

医療・ヘルスケア、デジタル経済、環境対応などの分野は、タイ政府が積極的に支援している成長領域です。日本企業が持つ技術力や品質、そして信頼性は、これらの分野で強い競争力を発揮できます。中小企業は現地パートナーと連携することで小規模ながらも確実な成果を出せるポテンシャルがあります。

Withthaiから見た現地の最新動向

タイに18年間在住し、商社で長年現場を見てきた私の実感としても、今のタイ市場は「次の成長ステージ」に入りつつあります。消費者の嗜好は成熟し、タイ企業も日本企業との協業に前向きです。重要なのは単なる輸出ではなく「共に市場を育てる姿勢」です。Withthaiでは、現地目線での販路開拓支援や企業マッチングを行い、日本企業の持続的なタイ進出をサポートしています。観光が再構築される今こそ、非観光領域での新しい挑戦を始める好機だといえるでしょう。

タイ進出を考えてる方はお気軽にお問い合わせください。

長谷川舞美|タイ貿易×海外販路×インバウンド戦略支援

タイ在住18年・大手総合商社出身。中小企業のタイ進出と訪日インバウンド支援を行うマーケター。

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